中室 太輔 PRディレクター

ティアドロップと曇り空

#05

マーベリックにグース。そしてアイスマンにスライダー。この名前にピンと来た人は多いはず。そう、映画「TOP GUN」である。

1986年に公開されたこの作品はアメリカ海軍の戦闘機乗りの物語だが、その空中戦の迫力も去ることながらこの映画にはもう一つ魅力があった。それは映画に登場する海軍兵士たちの装いである。
僕が初めてこの「TOP GUN」を見たのは公開から3年後ぐらい経った頃で小学3年生とかだったと思うが、真夏の日差しに真っ白に輝く映画の中の彼らの制服は、当時まだ幼かった僕にはまぶし過ぎたのか、頭の中で何かが破裂したかのような衝撃だった。
ティアドロップサングラスに、胸元に輝くドッグタグネックレス。それだけではない。上着をおもむろに脱ぎ、上半身裸になったかと思えばビーチボールに勤しみ、ビーチを後にしたかと思えばバイクにまたがり、金髪美女のもとへ向かいよろしくやるのである。なんという男前な流れ。どんな男であっても、こんな男前に憧れないわけがない。僕はまだ幼いながらに、ブラウン管の中の男前の完成形のような男に釘付けになってしまったのだった。
しかし、僕の隣でそれを観ていた父は違った。「こんなレーザーディスクを買って損した」と言って、その場を去ったのだった。そこは中村雅俊に似ていると自ら豪語していた父親だっただけに、「トム・クルーズごときに負けるか」といったところだったのだろうか。人の価値観は様々である。と当時の僕が思ったかどうかはさておき、父親の言動には全く気にせず、僕はそのままブラウン管の中の男に“男前”を見せつけられ続けたのだった。
しかし、一週間後の週末。父親は当たり前のようにティアドロップサングラスを掛けて颯爽と妻子の前に現れた。そして僕をドライブに誘ったのだった。
助手席から見たあの日の曇り空を、僕は一生忘れない。