藤戸 剛 FUJITOデザイナー

「カジュアルで一番はなんやと思う?」

#03

「カジュアルで一番はなんやと思う?」

ひとまわりほど歳の離れた師匠に質問され、僕はとっさに「ヘインズの3枚Tシャツですかね」と答えた。二十歳そこそこの自分にとっては悪くない返答だったように思うのだが、もちろん不正解。

「ジーンズやろ」師匠の答えはいつも明快だ。ジーンズは19世紀後半に主に鉱山で働く労働者のために作られたパンツ。誰しもが履いたことのあるまさに定番のパンツであるが、元来作業着でありそのディテールの多くに今日のカジュアル衣料の基礎となる要素が詰まっている。確かにそうだと、僕は師匠の言葉を頭の中で繰り返していた。

それから数年経った2002年の春、僕は自分のブランドを始めるために28歳で独立した。最初の1型は無謀にもデニムジーンズからと決めていた。最初はまったくバイヤーに相手にされずに苦労したけれど、今となってはブランドの顔となった。18年間何も変わらないうちのジーンズを履くたびに、ずっと応援してくれるお客様と作り続けてくれた職人の皆さんに感謝し、ブランド立ち上げ時の思いがよぎる。

小学生の頃に履いていたジーンズの膝を紙やすりでこすって破り母ちゃんを呆れさせたり、高校では制服の下にレプリカブランドのジーパンを履いて学校へ行き仲間と生地の色落ちを競ったり、履いたまま風呂で”ゴシゴシ”ももちろんやった。Tシャツ&スニーカーでスケボーするにも、ここぞのデートも、ジャケット羽織って革靴にもサイズと色をうまくこなせばどんな状況でも使える魔法のような1本。他にこれほど凡庸性のあるパンツはない。いつも僕のそばにいる相棒のような存在だ。

僕は今でも出来るだけ自分の店で接客するようにしている。その際に「もし迷ってるのなら、朝出て行く時に、何となく手にとりそうなほうを選んでください」と言うことがある。僕らのブランドのように安心を洋服に求められる場合においてはとても重要なことで、着ているだけで不安になるようでは一日中気持ち良く過ごせないかもしれない。そんな時に自然と選んでもらえるような1枚になれればと思ってデザインしていたりもする。

僕にとってのユニフォームはデニムジーンズです。だからこそ僕らが作る洋服は、誰かにとってそっと寄り添うユニフォームのような存在であってほしいと心から願っています。